きょお!と喚いてこの汽車はゆく新緑の夜中 金子兜太 評者: 安西 篤 

 第一句集『少年』所収。昭和26年、組合運動から逐われ、日銀福島支店に転勤させられた頃の作。配所のわびしさをまったく感じなかったといえば嘘になるが、日銀を相手に戦ったという高揚感は残っていた。
 「きょお!」という汽車の擬音はこれまでにない表現だが、「喚いて」とあるからには明らかに擬人化されたもので、その音象が「この汽車」に託した心意のかたちに勢いを与える。そしてまっしぐらに走りこむ「新緑の夜中」。フランスレジスタンス運動をテーマにした映画の一場面のようなリアリティがある。映像自体の迫力もさることながら、畳かけるような破調の韻律の力強さがものを言っているからだろう。
 
評者: 安西 篤
平成19年5月7日