墓標立ち戦場つかのまに移る 石橋辰之助 評者: 谷山花猿

 「俳句研究」第五巻十二号(昭和十三年十二月号)掲載。年間自選作品としてだされたもので、無季の戦火想望俳句である。このころ、辰之助は新宿帝都座の照明係をしており、西東三鬼・石田波郷・高屋窓秋らが遊びに来てはニュース映画をともに見ていた。この句は上海攻防戦(昭和十二年八月)のニュースから詠まれたものと思われる。上海攻防戦は激戦で日中双方の戦死者が続出、仮埋葬し木の墓標が立てられ、従軍僧が読経した。はじめ<墓碑生まれ>と「荒男(あらお)」第二号に発表されたが、三鬼の指摘で<墓標立ち>に改められたという。「馬酔木」脱退後、辰之助が初めて詠んだ無季句として俳句史的にも注目される。
 
評者: 谷山花猿
平成19年11月19日