ばか、はしら、かき、はまぐりや春の雪 久保田万太郎 評者: 村井和一

 にぎり鮨のネタづくしのような句。作者の遊び心だろう。寿司屋のカウンターでこれらの貝類をつまみにいっぱい酒を飲んでいるような情景が思い浮かんでくる。
 「ばか」は、ばか貝の身、「はしら」は貝柱のことだが、ばか貝の柱も珍重される。
 久保田万太郎は、東京浅草生。慶応大学卒。作家。芸術院会員。文化勲章受賞。俳句の上では、昭和20年安住敦らとともに『春燈』を創刊、主宰。
 昭和38年、食事中に鮨を気管につまらせて急逝したと伝えられる。作者の遊び心を示す作品に「一句二句三句四句五句枯野の句」下町生まれの作者らしい句としては「神田川祭の中をながれけり」などがある。享年75。句集としては『道芝』『久保田万太郎句集』など。
出典:句集『流寓抄』
評者: 村井和一
平成20年10月17日