2019年度 第37回兜太現代俳句新人賞 佐孝石画 (さこう・せっかく)

・1970年(昭和45年)3月22日福井県生まれ。(満49歳)
・1992年(平成4年)金沢大学教育学部国語国文学科卒業。福井の俳人大家青哉、吉田透思朗、齋藤一湖の影響を受け作句開始、俳誌『海程』に投句を始める。
・1997年(平成9年)海程新人賞受賞、同人に推挙。
・1999年(平成11年)大沢輝一らと俳句同人誌『狼』を立ち上げ、以降同誌編集人。
・2018年(平成30年)海程賞受賞。
現在、『海原』同人、『狼』編集人、現代俳句協会会員。 

「独白」 佐孝石画

つみびとの破顔のように芒原
夜の芒鏡が封印されている
新月という決定的なまばたき
寒月の水位に軽い痺れあり
月を吐く冬木一つの懺悔かな
音階の高みへ枝の枯れゆくや
せいじつな怒りよ冬木の指先よ
完璧な逃走でありかいつぶり
橋渡る人も擦り傷時雨かな
雪原に嗚咽を捨てに来た鴉
雲一つ撃ち抜きに行く猟師かな
月光に打たれる石の密度かな
こっそりと石が石生む冬日かな
寒昴眼窩に泳ぐ目玉かな
音読のはにかみのよう雪の朝
きさらぎの家族紙背の字の揺らぎ
揚雲雀忘我に弾力ありにけり
まなざしの触れ合う脆さ春の雪
祖父の部屋白梅は疾走していた
まばたきを忘れた空から雲になる
深爪のように砂丘のように春目覚め
我という吹き寄せられた桜蕊
うらぎりの落下速度や花は葉に
うらぎりの記憶や遠く夏木立
こなぐすり溶け行くままに花は葉に
紫陽花に火のさみしさを見ておりぬ
濃紫陽花ふっと瞼の重さかな
桐の花とおく冷たい夜の腋
花桐にきれいな舌に言葉かな
情という淡い肉塊桐咲けり
遠雷や水脈の果てとしてのわたくし
紙風船突き合う昏さ遠蛙
つぎはぎの感情論や花水木
砂丘にて風の臓腑を見つけたり
髪洗う指の隙間に夜を混ぜて
蟻の列この遠浅の海の記憶
刃こぼれの瞬間つづく蝉時雨
たとうれば湖底の目覚め夕かなかな
かなかなの明るい水面見えてくる
夕映えや瞳はとおいとおい雫
どくだみに発火装置がありまして
十薬の青い心臓濡れてあり
消印のごとく母美し白十字
足長蜂いざ蒼空を刺しに行け
空を見る眼球という水溜り
乱読の手足が光るあめんぼう
暗算の表面張力夏の草
空めくる旅に疲れて夏の蝶
夏蝶の斃れる前に浮きにけり
独白は夕焼のまなじりにあります